シンイ〜信義〜
第7話〜ウンスの取引〜

頑丈な鎖で繋がれ牢に閉じ込められるヨン。

それはヨンのために特別にしつらえられた、とても強固な鎖だった。

そこに座り込み、目の前の1匹のねずみをじっと見る。

慶昌君の最後を思い出す。

『プオングンが教えてくれたのじゃ。どうすればお前を助けられるか』

『キチョルが来ていたのですか?あやつが毒を?あの者のせいで』

『この毒をヨンに飲ませよと言った。愚かだな。つまらぬ浅知恵だ』

『それで慶昌君様が代わりに毒を・・・どれほどの苦しみか』

『痛い・・・苦しい。ヨンよ・・・もう・・・耐えられぬ』

思い出して涙があふれる。

今度はウンスを思い出す。

『まさかあなたが?触らないで!汚れた手をどけて』

思い立ったヨンは懐からウンスに貰ったアスピリンを取り出す。

ビンの中にはこの間ウンスに貰った黄色い菊の花が。

その花を取り出してじっと見る。

『どうぞ』

『なんです?』

『あなたにあげる』

『もたれていいわよ。私が守るから少し休んで』

花をビンに戻して懐にしまいその場に寝る。

その頃ウンスはチョルの屋敷で部屋に閉じ込められていた。

ドアを開けようと試みるがドアの外から頑丈な鍵が。

ウンスは一人、檻の中から自分を見つめるヨンの悲しい目を思い出していた。

その時ドアが開く。

あの時自分を助けに来てくれたヨンと重ねて急いでみるが、入ってきたのはチョヌムジャ。

チョヌムジャ「お待ちかねです」

ファスインから『舎兄に会う時は強気で』と言われたのを思い出したウンスは通された部屋で待つチョルの前まできて椅子を蹴る。

チョル「空腹でしょう?軽食を用意しました」

ウンス「この間と態度が違うわね。この前はお前だの偽物だの生首にするだの言いたい放題だったくせに。今日は何なの?ご飯に毒でも盛ったの?」

チョル「医仙を殺すなら毒は使いません。天の医員に毒を盛るなど」

ウンス「じゃどうする気?」

チョル「お掛けを」

ウンス「座らないと殺す?」

チョル「監禁したことを恨んでますか?」

ウンス「私は話があると100回は言い続けたわ。話したいとね。完全に無視して部屋に閉じ込めて。今更?」

薬師「恐れ知らずのおなごめ。偉そうにすると・・・」

黙らせるチョル。

チョル「医仙にお願いがあります」

ウンス「ふんっ、お願いがあるから急にかしこまったわけね。ビジネスのディール(取引)は得意よ。私からもお願いが。先にカードを出して。カードよ。条件」

横文字が通じない一同。

医仙の手術道具を持ってくる薬師。

ウンス「私のだわ。チョニシにあるはずよ?盗んだの?」

チョルがもともと持っていた古い方も見せる薬師。

ウンス「これ・・・」

チョル「お解りか?」

ウンス「どうしたの?なぜここに?私のじゃない」

錆びたメスの裏を見ると『MADE IN KOREA』と書いてあり目を疑う。

ウンス「これは?何なのよ!」

皇宮では。

チュソクがチャン侍医の助手に扮し薬を抱えて歩いている。

なんとか王に隊長の伝言を伝えるためには王に会わなければならない。

だが軟禁されている王、そして近衛隊であることがバレれば捕まってしまう。

薬を名目に王に会おうとしている。

王「チャン侍医」

チャン侍医「王様、お薬の時間です」

目くばせで気づく王。

王「もうそんな時間か」

ドアが閉まった瞬間跪くチュソク。

チュソク「王様」

王「その方」

チャン侍医「王様、近くに寄せ静かにお尋ね下さい」

チュソク「近衛隊チュソクと申します」

王「近衛隊は監禁されたはず」

チュソク「私は王様の命に背き隊長に会いに行きました」

王「ではお前だったのか。副隊長の密命で隊長と内通を?」

チュソク「死に値します」

王「チェヨンには?」

チュソク「会いました」

王「何をしていた?」

チュソク「慶昌君と医仙を守り山中を逃げておりました」

王「逃げる?山の中をか?なぜだ?」

チュソク「はかられたようです」

王「はかられた?」

チュソク「そう聞きました」

王「チェヨンは官軍に捕らえられた」

チュソク「私と別れた直後に」

王「そしてお前がここに現れた」

チュソク「もっと早く伺うつもりが・・・」

王「チェヨンに何か託されたのか?奴はなんと?失敗したら余に訴えるように頼んだか?策略であり己に罪はないとな」

チュソク「違います。隊長は潔白です」

王「では、力も脳もない王ゆえ余が味方欲しさに喜んで迎えると思うたか?」

チュソク「この通りでございます」

頭を下げるチュソクに刀を投げる王。

自害しろという意味だ。

王「王命に背き謀反人と内通した者、自ら死に値する大罪だと申しただろう。死ぬがよい」

首に刃を当てるチュソク。

チュソク「隊長からの言づけだけはお伝えして斬首致します。こうおっしゃいました。近衛隊チェヨン、王様の任務を完遂しておりませぬ、と」

王「それだけか?」

チュソク「全て、お伝えしました。王様のご健勝をお祈り致します。高麗の聖君におなり下さい」

チュソクが己の首を斬ろうとした瞬間に止めるチャン侍医。

王「まだやることがある」

これまで何度かやり取りされてきた、王とヨンの心の会話。

『王の任務を完遂しておりませぬ』この言葉に込められた意味を王が理解してくれることを祈ったヨン。

チョルの屋敷。

ウンスは暗い倉庫のような部屋でチョルから道具を見せられている。

ウンス「これは・・・華佗の形見?数百年前の?」

チョル「他に二つございます」

ウンス「見せて。見せたかったんでしょ?」

チョル「実は医仙をめぐり王と賭けをしました」

ウンス「賭け?」

チョル「7日で医仙の心を手に入れられるか賭けたのです」

ウンス「はんっ、それで勝ったら?」

チョル「医仙は私のものに。負ければ今まで通り王のものです。今、お心はどちらにおありか?」

ウンス「私の心は私のものだわ」

チョル「どうか私に」

ウンス「嫌よ」

チョル「嫌と。トクソンプオングンの私に向かって」

ウンス「これの正体とあと2つってのが何か知りたいのよね?」

チョル「教えて下さるのか?」

ウンス「2つというのがこれとセットの物なら私の世界にある物のはずだわ。知りたい?」

チョル「条件は?」

ウンス「チェヨンを助けて」

チョル「順番が違います。医仙を手に入れて形見のことを聞けばよい。ゆえに取引します。医仙、心を私に下さいますか?さすればチェヨンを助けましょう」

牢では、チョルの弟が確認に来るとヨンはあれからずっと寝たままだと報告を受ける。

一度も起きないと。

食べもせず用も足さないと。

ヨンは夢の中。
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やはり氷一面の世界。

氷に穴を開け釣りをする父を見る。

父「見つからぬのか?」

ヨン「探し物は何でしょう?」

父に歩み寄ろうとすると突然足元の氷が割れ湖の中に落ちてしまう。

重い鎧を身にまとったヨンは何とか水面に上がろうともがくが重くて上がれない。

咳込みながらふと周りを見ると鎧は濡れておらず、氷一面の世界だったはずが花の咲き乱れる春になっていた。

父「どうした?」

ヨン「氷は溶けたのですか?」

父「夢でも見たのか?」

ヨン「湖は一面凍っていたはずです」

父「一度も凍ったことはない。見ろ。変わらぬ景色だ」
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ヨンは暗い牢の中で、一粒涙をこぼす。

皇宮。

王はあれからずっとヨンの言葉を考えていた。

『余が与えた任務を完遂しておらぬ』

その言葉の意味を。

突然思いつき振り返る王。

王「先代ではなく余の命に従った。そうか、そうだったのか」

意気揚々を歩きだす王。

王の登場で会議が始まる。

議題はチェヨンの処罰。

大臣衆一致でチェヨンを処刑するべきと。

王はそこで言い放つ。

『よかろう。厳重かつ早急に、余が、自ら尋問する』と。

反対する一同に更に言い放つ王『余は尋問すら出来ない無能な王か?』と。

ヨンが捕らえられている牢へ自ら出向いた王。

止める臣下を無視して一人で牢に入る。

ヨンと対面する。

王の前にかしづくヨン。

王「余が与えた任務を完遂しておらぬとな」

ヨン「さように」

王「つまりまだ遂行中だと言うのか?」

ヨン「まさしく」

王「任務は2つあったな」

ヨン「毒殺の証拠は既にお見せしました」

王「では2つ目」

ヨン「その証拠により敵の正体はもうご存知かと。しかし王様が戦うべき理由は探せておりませぬ」

王「余は戦うべき理由を知っておる」

ヨン「そうですか」

王「余にはこの国を守る使命がある。余に戦う方法を教えてくれまいか?」

ヨン「私は謀反人として獄におります」

王「逆賊の汚名を着て死ぬ気か?それが本望ならもうこれまでだ。教えてくれ。余はどう戦えばそなたを救える?プオングンとの賭けは医仙の身を守る唯一の方法だと思うた。余の傍では命を狙われる。力なき余には致し方なかった」

ヨン「医仙は無事ですか?」

王「それを確かめてくれぬか?」

チョルの屋敷。

ウンスとチョルとファスインの3人は庭園のテーブルで酒を飲んでいる。

ウンス「これ一番強いお酒?」

ファスイン「私が火をつけるのに使うくらいね」

ウンス「こっちはまろやか」

それぞれを3つのコップに注いでいる。

ウンス「オッケー。それでは。グラスで竜巻を見せたいけど無理ね」

そこに咲いていた葉っぱをちぎって蓋にし、ブレンドした酒をチョルとファスインに渡す。

ウンス「目分量で適当に作った爆弾酒でございます。まず1杯目はぐいっといきます」

そういって自分で飲み干す。

ウンス「はい、次はお姉さんよ」

ファスインも飲むが思わずむせる。

ウンス「おじさん・・・いえ、プオングンさんも飲んで」

チョル「酒より心が欲しいのですが?」

ウンス「ブランド物のバッグじゃあるまいしお金でも買えない。強引に奪っても自分のものにはならないわ。違う?」

また酒を注いでチョルのコップに乾杯する。

ウンス「チアーズ!私の心が欲しいくせに私のお酒を断るの?」

諦めて飲むチョル。

チョル「王であれ医仙であれもてあそぶのは許せん。断じて見過ごせぬ」

ウンス「私だって簡単には心をあげられないわ。欲しいならそれなりに努力したら?」

チョル「だから酒を飲めと?」

ウンス「バカでモテない男ほど結果を急ぐのよね。もう一度だけ言うわ。女の心が欲しいなら週に1度は一緒に飲まなきゃ。飲んでるうちに心が打ちとけてくるの。だから手首を掴むのは100年早いわ」

笑いだすチョル。

その頃、ヨンのいる牢。

見張りがヨンの異変に気付く。

手首のあたりから血がしたたり落ちている。

見張りを怠って自害でもされたらプオングンに殺される!と慌てた見張り達はヨンに近づくが、近づいた見張り兵を倒して牢から逃げるヨン。

そこにはねずみの死体が。

偽装工作だ。

天気がいいので広い庭園を散歩しに来たウンスとチョル。

その後ろにはたくさんの護衛や部下達がゾロゾロとついてくる。

ウンス「解ってないのね」

チョル「天界の女人の心を掴むにはデ・・・」

ウンス「デートよ」

チョル「それが要ると?」

ウンス「デートは二人きりが基本よ?こんなにズラーっと引き連れて話にならないわ」

チョル「だめですか?」

ウンス「人目があって事が進むと思う?進めたいって意味じゃなくてそういうものなの」

『ついてくるな』と合図するチョル。

庭園をチョルと並んで歩くウンスを物陰からじっと見つめるヨン。

チョル「開京の町を見物したいとか」

ウンス「そうね。観光は市内から始めなきゃ」

チョル「町の近くまで歩きましょう。水辺には花が咲いています」

ウンス「水辺と花?いいわ、行きましょう」

水辺にきた二人。

チョル「王がいない?」

ウンス「いないわ」

チョル「誰が民を治めるのです?」

ウンス「大統領よ」

チョル「それはどんな王ですか?」

ウンス「王じゃないわ。王は世襲で息子も王になれるでしょ?大統領は何年かに一度民によって選ばれるの。民の中から一番気に入った人を選ぶのよ」

チョル「どう見分けるのです?誰が王にふさわしいかを」

ウンス「だから選挙演説をするの。『私はこういうものだ。当選したらこんなことをする』とね。人前で演説して公約を掲げて」

笑いだすチョル。

ウンス「何なの?飲むと笑い上戸になるタイプ?」

チョル「数十数万の者が自分が王だと騒ぐさまを思えば実に滑稽だ」

ふと黄色い菊の花が目に入るウンス。

立ち上がってそれをじっと見つめる。

チョル「お好きな花ですか?」

ウンス「何となく・・・知ってる花だから」

物陰からそれを見ているヨン。

医仙に渡そうと花を取りにきたチョルは部下に話しかけられる。

話している二人を見て、その隙に逃げ出そうとこっそり走り出すウンス。

広い庭園の中を走り回るが出口が見つからない。

段差でつまづいて落ちそうになったウンスだが、誰かが後ろから抱き留めてくれる。

物陰からじっと見ていたヨンだった。

追ってきたチョルだと思ったウンスは抵抗する。

ウンス「離してよ。試しに逃げてみただけよ。プオングンさん」

後ろを振り向くと誰もいない。

辺りを見回しても誰もいない。

不思議に思うウンス。

諦めて歩きだすが、本当はウンスにも薄々解っていた。

それがヨンだと。

チョル「何を探しているのですか?」

ウンス「いえ・・・」

チョル「誰かいましたか?」

屋敷へ戻ると血相を変えて飛んでくる部下達。

チェヨンが牢から消えたと。

それを聞いているウンス。

ヨンの無事を確信する。

皇宮の兵舎を探しにきたチョルの兵達。

皇宮の周りを固める官軍たちの傍を、お香を持って歩き回るチャン侍医。

兵達はバタバタと倒れていく。

チャン侍医が作った麻酔のような効果を持つお香だ。

その隙にテマンと皇宮に入るヨン。

ヨン「王様、チェヨンでございます」

王「何とも驚いた。謀反の大罪人が出入り自由とは」

ヨン「一つ伺い、一つご返答したく参上しました」

ヨンが兵舎にいないと報告を受けたチョルは、王のもとにいると確信する。

ヨン「恐れながら伺います。王様はご存知だとおっしゃいましたが何のために戦うのですか?」

王「王となるためだ」

ヨン「ならずとも」

王「チェヨン、余を認めぬくせに口で言うだけでは虚しい」

ヨン「戦い方を尋ねられました。ご返答致します。王は戦ってはなりませぬ」

王「その心は?」

ヨン「臣を持つべきです。数人の王になるか数千数万の王になるか。まず私がなります。戦いは私が致します」

慶昌君を刺した時に決意したヨン。

皇宮を出て平民として自由に生きることこそが願いだったが、それを全て捨て皇宮に王に全てを捧げ生きてゆくと。

その決意が今王に告げられたのだ。

逃げたヨンを探すため王の間へ駆けつけたチョル一派。

王「待っておったぞ。プオングンが禁軍を配置したと聞いたがそうか?余が力量を試したらあのざまだ。あれで余を守れるか?替えよ」

チョル「御意。ところであのざまにしたのはチェヨンですか?」

王「チェヨン?獄にいる者のことか?そなたの弟が番をしておろう?まさか不手際があったか?」

急いで牢に戻るとヨンは鎖に繋がれて座っていた。

チョル「近衛隊チェヨン。いらぬことをしやがって。罠だと気づいておったろう?全ては私が見込んだそなたを手に入れんがためにしたこと」

ヨン「全てとは私を逆賊に仕立て部下の武器を奪って監禁し慶昌君様に毒を渡したことですか?」

チョル「どちらの王を好いておるのか知りたくてな。1ついいか?そなたが慶昌君様に毒を飲ませたのか?明日にも汚名をそぎ禁軍を任せるつもりだった。女人と慶昌君様を連れ逃走したせいで計画が台無しだ。頭痛が続きそうだ。ややこしくなった。医仙から頼まれてな。そなたを出すようにと。これ以上私の手をわずらわせるな」

ヨン「プオングン様、人はよく言います。『私は生きていく』と。でも私は違います。私は死んでいくのです。いつか死ぬ日を待ち1日また1日そうやって何もあらがわず静かに死ぬつもりでした。なのにプオングン様は黙って従っていた私を何度も刺したのです。目を覚ませ、立ち上がれ、生きてみろと」

皇宮。

夜半に王が王妃の部屋を訪ねてくる。

大きな箱を持って。

王「夜更けにすまない。頼みがある。余は意地を見せたいと思う。欲しい者を手にいれるために意地を見せようと思うた。それには王妃の支えがいる。助けて欲しい。余が憎く情けない姿を笑おうが余もこれより正面突破を試みる決意だ。力になってくれ」

箱から出てきたのは、高麗王妃の正装。

そして翌日。

皇宮では会議が行われる。

それに呼ばれて参上するチョルとウンス。

王はいつもの様相で現れ、その場で脱ぎ捨てて高麗の正装に着替えて見せる。

後から登場する王妃もまた高麗の正装で現れる。

元の衣装を脱ぎ捨て高麗の衣装に着替えた。

これが何を意味するのかを知らない者はいない。

そして近衛隊一同をここへ呼ぶ王。

王へ近づくヨンは一瞬ウンスを見るがそのまま王の方を向いてしまう。

ヨン「近衛隊長チェヨン以下隊員一同、王命にて参上致しました」

王「苦労をかけたな」

先代の王と結託しようとしたのなら処罰されるべきだが余の命に背いたことはないとヨンの潔白を言い渡し近衛隊復帰を命じる王。

ニヤっとわずかに笑いあう王とヨン。

チョルの屋敷では、今回の一件が昨晩たった一夜で全て事が運んだのかと話している。

その会話を壁を挟んでウンスが聞いている。

ヨンは自分の部屋でいつもの支度をしている。

ヨン「これから王に謁見する。皆持場へ戻る準備をしておけ」

副隊長「承知しました」

王の間で作戦会議が始まる。

ヨン「まず宮中を清めねばなりません」

尚宮「その真意とは、王様を取り巻くネズミの駆除でございます。人間の言葉を話すネズミの大群が宮中に巣食っておりますゆえ。まず王様の側近から身辺を清めねばなりませぬ」

王「チャムリは元の頃より余を守ってくれた。口やかましいが10年も連れ添った功臣だ」

尚宮「チャムリですが最近何やらご熱心な様子。禁軍への根回しにいそしんでおられます。龍虎軍と鷹揚軍はキチョルの掌中にありますがキチョル直属の私兵より俸禄が少なく手なづけやすいのです」

ヨン「その資金は?」

尚宮「これゆえ武人は世情に疎い。チャムリは帰国するや握ったものがありました。皇宮の倉庫の鍵です」

王「そなたは事情通だな」

ヨン「宮中にチェ尚宮、外に手裏房(スリバン)ありですね」

王「スリバン?」

ヨン「役に立つ者たちゆえいずれ改めて」

尚宮「来るだろうか?」

ヨン「何とかします。まずは情報、そして人員の確保。味方を守るには兵力も必要です。それには?金がいります」

尚宮「高麗の金づるどもはプオングンの配下」

王「聞き入れる相手か」

尚宮「王様にお答えなさい」

ヨン「奪う以外まず無理でしょう」

王「先に医仙を取り戻したい。取り戻さぬうちは心苦しゅうてならん。王妃や(ヨン)そなたに」

ヨン「あれは賭けでは?」

王「なら何だ?7日で医仙の心を掴んだ者が医仙を得る」

ヨン「では医仙の心を確かめましょう」

尚宮と外を歩くヨン。

ヨン「何です?」

尚宮「お前こそ」

ヨン「顔を見てる」

尚宮「夢を見るでない」

ヨン「何のことだよ?」

尚宮「宮中での出来事は何でも耳に入ってくる。白昼素足のおなごがお前に会いに行った話も方々から聞いた」

最初にウンスが履いていたパンツスーツの裾を太ももまで切って短パンにした事件だ。

尚宮「医仙はお前が夢見てはならぬお方」

ヨン「なぜ?」

尚宮「キチョルがものにせんとする女人だ」

ヨン「それが?」

尚宮「慕ってはならぬ」

ヨン「俺は・・・」

尚宮「お前のことより医仙が心配なのだ。やり口が解るだろ?あの者は何でも掌中に収める一方手に入らない者は抹殺する。医仙の無事を願うのなら目を合わせず名前も口にせず想うことも・・・」

ヨン「妙な勘ぐりはよしてくれよ。俺がお連れした手前帰す責任がある。それだけだ」

尚宮「確かにお前の心にはまだあの娘がおる。同じ赤月隊だったな。あれから7年、時間は止まったままか?」

歩き出すヨンに後ろから何かを投げる尚宮。

さっと受け取るヨン。

尚宮「スリバンに会うにはそれが要る。放浪の者達ゆえにな」

チョルの屋敷に戻ったウンスは、庭園を一人散歩する。

昨夜のことを思い出す。
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チョヌムジャに連れられてやってきた暗い部屋。

チョヌムジャ「後ろにいて下さい」

ウンス「何で?」

笛を吹くチョヌムジャ。

ウンス「笛が吹けるのね」

前方にあったものが全て爆発と共に吹き飛び、驚いて飛び退くウンス。

ウンス「どうやったの?」

チョヌムジャ「音功です」

ウンス「音功って何?」

チョヌムジャ「音で殺します。ようやく前方にのみ放ち殺せるようになりました」

ウンス「それじゃ・・・あの女(人)は火を出して人を殺すの?」

チョヌムジャ「舎妹は火功です。武功の名手といえど獄中ではよけきれませぬ」

ウンス「獄中?」

チョヌムジャ「今宵、討てと命がありました」

ウンス「それってチェヨンさん?」

チョヌムジャ「討つ前に尋ねよとも言われました。あの者を殺しますか?生かしますか?」

ウンス「それじゃ・・・殺すなと言えば助けてくれるの?」

チョヌムジャ「むしろその逆。助けろと言えば殺し、殺せと言えば生かせと」

頭にきたウンスは急いでチョルの元に駆けつける。

ウンス「ふざけないで。本気で怒らせる気?」

チョル「夜更けに何の・・・ご用かな?」

ウンス「死刑判決なら最高裁の判事に頼むのね。ここでは介錯人と言うべきかしら?殺せと言えば生かし、殺すなと言えば・・・って何よ?ちゃんと説明して」

チョル「医仙」

ウンス「言い訳しなさいよ」

チョル「だからお心が欲しいのです。心が私にあればあの者に用はないはずです。違いますかな?」

ウンス「それは脅し?」

チョル「まさか。問いかけを脅しだとは心外です。心を下さるならそちらをお召し頂きたい」

ウンス「よく聞いて。チェヨンは私を無理やり連れてきたの。生かすも殺すも私が決める。無断で何かしたら私があなたに天罰を下すわ。脅すならこうよ」

立ち去る途中で用意されていた真っ白な衣装を抱えて出ていくウンス。
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菊の花をぼんやり見つめている。

チョル「何をお思いですか?」

ウンス「知りたくてきたの?」

チョル「午後はずっとこちらだと聞いて」

ウンス「なぜ?逃げないか心配で?」

チョル「逃げますか?」

ウンス「私はここに監禁されてるの?大門の方に行ったら道をふさがれたわ」

チョル「行きたい所が?」

ウンス「私の質問に先に答えるのが筋よ。質問で返すなんてマナー違反だわ」

チョル「マナー?」

ウンス「つい天界語が・・・外に出てもいい?」

チョル「なりませぬ」

ウンス「ほら、その態度じゃね。囲えば心が手に入ると思うの?」

チョル「取引はお得意と。天界語で取引はディールだとか?」

部屋に連れてこられたウンスは地図を見せられている。

チョル「お解りか?」

ウンス「地図かしら?」

チョル「元の滅亡を予言された。いつどのように元が滅び次にどんな国が興りどんな大国になるか示して頂きたい」

ウンス「知ってどうするの?」

チョル「世を変えたい。行く末を知る方の力を借り豊かな世を作るのです。いかがかな?」

ウンス「でもそんなに詳しくないの。韓国史や世界史は得意じゃないし」

チョル「こうおっしゃったはず。民が望む王を選び民のための政を行うのだと。私が実現させます」

ウンス「でもね、歴史は勝手に変えられないわ」

チョル「なぜです?」

ウンス「誤って書き換えれば未来が壊れてしまうもの。よく解らないけどそうらしいの」

チョル「では高麗は?」

ウンス「高麗とは違う国名になるわ」

チョル「領土はいかに?」

ウンス「それが・・・今より狭まり2つに分断されるわ」

チョル「ならばお教え下さい。どの国が滅びどの国が興るのか。どの者が己の損得になるか。お教え下されば高麗を最強の大国にしてみせましょう。民が威勢高々に暮らす世を作ります。道を示して下されば私は医仙ともっと高い頂へ上り詰める所存です」

チョルの屋敷を尋ねてきたヨン。

チョヌムジャが出迎える。

ヨン「返して欲しいものがあります」

チョヌムジャ「何のことだ?」

ヨン「頼めるか?」

ファスインも出てくる。

ファスイン「何が欲しいのか言ってみて」

無視してチョヌムジャと向かい合う。

ヨン「伝えろ。預けたものを取りに来たと」

中では。

チョル「まず高麗の行く末から伺いましょう。高麗は衰退の一途にあります。国の基盤がもろいゆえ元に貴族させるが得策と思いますがどうか?だがじき元が滅亡するとなればどこに高麗を売りましょうか?売った先の国ごと手に入れるのです」

ウンス「誤解だと言ったら?」

チョル「誤解とは、はて?」

ウンス「私は天から来た者ではなく歴史も解らないと言ったら・・・」

チョル「その時は私を騙した妖魔になる。医仙ではなく妖魔なのですか?」

チョヌムジャ「兄者、あの者が来ました。近衛隊長チェヨンです」

行こうとするウンスにたたみ掛けるチョル。

チョル「裏切らないで下さい」

ウンス「会わなきゃ」

チョル「初めてです。天の方に出会えたこと程心躍る出来事はなかった」

ウンス「私はあの人に会いたいの」

ヨンが振り返るとチョルと一緒に出てくるウンスが。

チョル「私に頼みとはなんだ?」

ヨン「私の剣をお返し願いたい」

チョル「あれか。師匠から譲り受けた剣だな」

ヨン「プオングン様には用のない代物でしょうし剣がこちらにあることすらお忘れでしょう?」

チョヌムジャに持ってくるよう合図するチョル。

そしてウンスのために離れるチョル。

ヨン「お元気ですか?」

ウンス「私に会いにきたのかと」

ヨン「剣の用事で」

ウンス「話せる?聞きたいことが・・・」

ヨン「プオングン様と参内なさった。つまりお心はこの屋敷に?王はそうご判断されたが?」

ウンス「私はここに監禁されてる。出たいと言えばあなたは戦って血を流すわ。私は大丈夫。利用価値があるから大切にしてくれてる」

ヨンの袖を掴むウンス。

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